コレペティトールのお仕事③ 実働編

コレペティトールはオペラの稽古において、音楽面での重要な役割を担います。

劇場、団体、プロダクションにもよりますが、一般的にオペラの稽古には、個人稽古、音楽稽古、立ち稽古、通し稽古、舞台稽古などがあります。


前回のコレペティトールのお仕事②準備編では、事前の準備についてお伝えしましたが、今回は実際の稽古の中でどのような仕事をするのかについて書いていきます。

個人稽古(コレペティ稽古)

まずはコレペティトールと歌手による個人稽古を行います。
コレペティトール主導の稽古のため、コレペティ稽古とも呼ばれています。

皆で合わせる前に、歌手一人一人がそれぞれの役を習得し、歌えるようにならなければなりません。
音取りから暗譜まで、歌手の状態に合わせて対応しながら稽古をつけていきます。

音が取れていなければ歌のパートをなぞりながら弾き、リズムが入っていないときは一緒にリズム読みをし、暗譜が困難な場合は覚えるまで何度も繰り返し付き合います。

特に近現代の複雑なオペラなどの譜読みは時間がかかるので、根気の要る作業です。

正しい音、リズム、発音で歌うことに加え、歌詞の内容やテンポ表示、強弱、オーケストレーションなど、楽譜上のあらゆる情報をもとに、どのような表現をするか、どんなブレス、フレージングで歌うか等も提案してきます。

また、自分の経験を踏まえ、ここは指揮者は4分割で振ることが多い、この指揮者ならここのテンポはこんな風になる、ここは習慣的にこうする等、知っていることがあれば伝えておきます。

指揮者や他の歌手と合わせる際に柔軟に対応できるよう、個人稽古の段階でしっかり準備をしておくことが重要です。

基本的には一対一の稽古になるので、コレペティトールは相手役のパートを歌いながら弾きます。
たまに二重唱などを合わせるため、二対一になる場合もあります。

音楽稽古(アンサンブル稽古)

「わ」の会公演 音楽稽古

次に指揮者と複数の歌手で合わせる音楽稽古(アンサンブル稽古)が行われます。
指揮者主導による、音楽面を確認、強化する稽古です。
音楽稽古では歌手は演技をつけず、譜面を見ながら音楽に集中します。

プロダクションによって、まず音楽稽古をしてから立ち稽古に入るときもあれば、立ち稽古から始まり、必要に応じて合間に音楽稽古を行う場合もあります。

また、特に音楽稽古を行わず、立ち稽古の中のみで音楽的な指示を行う指揮者もいたり、その時々で様々です。

副指揮者による稽古と、本番を振る指揮者による稽古があり、後者はマエストロ音楽稽古と呼ばれます。

音楽稽古ではコレペティトールは指揮を見ながら弾きます。
ここで重要なのは、いかに指揮者の音楽を汲み取り、音にして表現するかということです。

テンポだけでなく、呼吸やニュアンス、音色など、指揮者の持っているイメージを緻密に感じ取ることが必要です。

同じ曲でも指揮者によって振り方も解釈も全く違い、十人十色です。
それに瞬時に反応して違う弾き方することは容易ではありませんが、楽しくもあり、イメージを共有できたときは大きな喜びが得られます。

指揮者や歌手と合わせることにより、沢山のアイデアをもらい、新しい音楽が生まれ、一人で弾く時とは別の色になれる。
これは私が幸せを感じられる瞬間の一つであり、この仕事の醍醐味だと思っています。

以下のリンクは、2017年9月に参加した新国立劇場「神々の黄昏」の稽古の記事です(新国立劇場Facebookより)。
3枚目の写真が、マエストロ音楽稽古で弾いている様子です。
https://www.facebook.com/nnttopera/posts/1540612602671680

立ち稽古

「わ」の会公演 立ち稽古

立ち稽古は、演技を伴った稽古です。
歌手は動きをつけながら歌い、演出面での決まり事を覚え、演技を深めていきます。

大きなプロダクションの場合は、広いリハーサル室にほぼ実寸で、ある程度の舞台装置が組まれます。
大道具、小道具、時には衣装も使用して、演技をつけて行きます。
立ち稽古初日に装置や道具を見るのも楽しみの一つです。

基本的には演出家、演出助手の主導で行われます。
演出コンセプトや演技の説明、立ち位置、動線の確認などに時間がかかるため、弾かずに待っている時間も長くなります。

特に合唱団の立ち稽古では交通整理が大変なので、ほとんど音を出さずに終わってしまったコマもありました。

演出家によって進め方は様々です。
あまり音楽を止めずに流してからダメ出しをする演出家もいれば、細かく止めて何度も繰り返す人もいます。
後者の場合はあまりに何度も同じ個所を弾くので、暗譜しそうになることもあります。

立ち稽古では歌手は暗譜で演技をつけながら歌うので、楽譜を持っていません。
そのため、演奏を始める際にはページや小節数でなく、歌詞で箇所が指示されます。
その歌詞をすぐに見つけて弾き始められるように、待っている間も注意しておくことが必要です。

立ち稽古には指揮者も同席するので、音楽稽古同様指揮を見ながら弾きます。
立ち稽古の中でも音楽的な指示や確認が行われます。
演技と音楽を結びつける大切な作業です。

また、指揮者は演技の間合いなどを見ながらテンポや表現を変えることもあるので、その都度対応していきます。

以下、2020年1月に参加した新国立劇場「ラ・ボエーム」の記事です(新国立劇場Facebookより)。
立ち稽古で弾いている写真が数枚掲載されています。
https://www.facebook.com/nnttopera/posts/2793470844052510

通し稽古

立ち稽古の終盤、舞台稽古に入る前に、リハーサル室での通し稽古が行われます。
細切れで稽古したものを通してみて、全体の流れを掴むためのものです。

ワーグナーなどの長大なオペラの場合は幕ごとに分担して弾くこともありますが、それ以外の場合は全幕一人で弾くことが多いです。

長い幕だと1時間半ほど休憩なしで弾き続けなければならないので、集中力と体力を要します。

これが終わると、オーケストラと歌の合わせ、ピアノ舞台稽古へ入ります。これについてはまた次回書きたいと思います。

Follow me!